自転車旅行を計画する

自転車琵琶湖一周旅行を終えて、自分の体力に少し自信がもてるようになりました。1日に100 kmくらいなら走れることがわかり、次は決められたコースではなく、自分で一から計画を立てて、自転車旅行をしてみたいと思いました。そこで、いつも走っている桂川サイクリングロードの終点である木津川を起点として、比較的安全そうなルートを考えることにしました。京都から東の方向にはほとんど行ったことがなかったため、東海地方を目的地と定め、1日100km移動するとして、コースを練ることにしました。地図とにらめっこして、どの道を通って行こう?と考える時間は、とても楽しいものでした。

初心者なので、なるべくきつそうな峠は避けることを考えました。そうして決定したルートが、木津川から伊賀上野まで行き、そこから亀山を経由して四日市へ向かう3泊4日のコースです。津に行くかどうか迷ったのですが、亀山市にある関宿という東海道の歴史的な街並みが残されている街を訪れてみたかったので、目的地の一つとして亀山市を選びました。私にとっては、比較的安価なビジネスホテルが立地していることも重要な条件のひとつでした。帰りは、関ケ原を越えて滋賀に抜け、そこから琵琶湖一周のときと同じルートをたどることにしました。

荷物は最小限にし、私が身に付けるのはウエストポーチだけにしました。衣類は、宿での着替えのためだけにTシャツと短パンを持ち、来ている服をホテルの風呂場で洗濯して着用するようにしました。自転車のフロントバックは、重たくなると走りにくいので、サドルバッグの上から、マジックテープでなんとか取り付けました。地図は、100円ショップのチャック付き透明ケースを使って、いつでも見られるように、ハンドルに取り付けました。

1日目(8月27日)

5時ごろ家を出発しました。まずは、サイクリングロードを南下し、木津川に向かいます。快晴で、とても気持ちの良い日で、サイクリストの方もたくさん走っていました。これまでにも何度か走った経験があるため、難なく木津川まで到着しました。そして、セブンイレブンで一息ついてから、国道163号線で伊賀上野を目指しました。

国道163号線では、初めて大型トラックがすぐ横を走り抜けていく恐怖を体験しました。非常に怖かったのですが、止まることはできないので、怯えながら走行しました。けれども、多くのトラックは徐行して走ってくれたため、有難く思うと同時に非常に申し訳なく、小さな声で何度もお詫びの言葉を繰り返しました。道路の端はガラス片が散乱していたり、路面が割れていたりして、とても走りにくかったです。自転車で国道を走るのは、予想以上に大変なことであると知りました。

「伊賀越え」は、徳川家康が本能寺の変の後に三河へ戻るための逃走経路として使用した道であり、田舎の風景が続きました。傾斜もそれほど厳しくはなく、車にさえ気を付けていれば、走りやすい道でした。

大河原発電所

大河原発電所は、大正時代に建設されたレンガ造りの水力発電所で、現在でも使用されているそうです。

予定よりもだいぶ早い14時ごろに、伊賀上野に到着することができました。

伊賀城や城下町を散策しました。とても暑く、500mlのペットボトルも、すぐに飲み干してしまうほどでした。

伊賀城は、高い石積みの城壁が有名だとのことでした。入城料が500円かかるとのことでしたので、お城の中を見学することはパスしました。忍者屋敷も、同じく有料でしたので、入ることは諦めました。

お城の西側にある、石垣から堀を眺めたところ。石垣の高さは水面から約30mにもなるとのこと。

寺町は、規模は小さかったですが、美しく整備されていました。道路の照り返しが、まぶしかったです。とにかく暑かったため、チェックインできる時間が近づくと、早々と宿へ向かうことにしました。

途中で立ち寄ったイオンのスーパーでは、近所から来られている様子の外国人の方が多くいらっしゃって驚きました。おそらく、近隣に工場等が多く立地しているからであろうと思われます。地方でもグローバル化が進展していることを体感しました。

ホテルでは、自転車を屋根のある自転車置き場に止めさせてもらいました。シャワーを浴びて洗濯を済ませると、疲れのため、すぐに就寝しました。

2日目(8月28日)

2日目も、朝5時ごろ出発し、引き続き163号線を走りました。途中で亀山市へ向かうため北へ折れ、「グリーンロード」という道に入りました。かわいらしい名前とは裏腹に、グリーンロードでは7~10%程度の坂が延々と続く過酷な道でした。小雨も降り出したため、持参した薄手のパーカーを着用しました。夏であるにもかかわらず、肌寒くなるほど身体が冷え、気力が萎えそうになりましたが、ただ足を回す機械になったつもりで、ペダルを踏むことだけに集中して坂道を越えていきました。写真を撮っておけばよかったのですが、グリーンロードを走っている間は、止まって撮影する余裕もありませんでした。

坂道地獄が終わり、ほっとしながら走っていると、お茶の工場の傍にネコがいました。

目的地である関には、10時過ぎに到着しました。ひどく寒くてひもじかったので、まず道の駅であたたかいうどんを食べました。おなかが空いていたからか、とっても美味しく感じられました。食堂の方は帰り際に「自転車できたの?がんばってね!」と声をかけてくれました。

関宿は、東海道の歴史的なまちなみが保存されており、重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。

かなり規模の大きな伝建地区でしたが、この日は、観光に訪れている人は私のほかに数名しか見かけませんでした。

関宿からは、「フラワーロード」という道を通って四日市へ行く計画を立てていましたが、フラワーロードに入る道がわからず、1時間ほども関の街をぐるぐるとさまよう羽目になってしまいました。迷ってしまったので、SHARP亀山工場で働いている方に道を尋ねました。すると「四日市へ行くんだったら、国道1号線を通って行くのが一番早い!そんなに危ない道路じゃないから」と教えてもらい、ルートを変更して国道1号線で四日市を目指すことにしました。ややこしい部分の切り抜け方も教えてもらいました。

教えてもらったように、国道1号線は意外に走りやすい道路でした。途中で立ち寄ったコンビニでは、「どこから来てるの?」、「がんばって!」等と声をかけてくれる人がいたり、中学生らしき少年には「何してるんですか?」と質問されました。「自転車で長い距離を走っているんです」と答えると、「楽しいですか?」と訊かれました。なんと答えるべきか窮しましたが、「自分の力で遠いところまで来られるのは楽しいです」と応じました。

少年の純真な問いかけを受けて、「いや、本当に私はこんなことしていて楽しいのだろうか…」と自問自答しました。私が自転車旅行を発起したのは、自分を変えたかったからです。何か今までにしたことのないことを成し遂げたら、私は変われるんじゃないか、と自転車に薄い希望をたくしました。自分をどうにかして変えたかった、でも、どうにもならなくて、そのもやもやが苦しいから、走ることで、発散している気がしました。

自転車のヘルメットをかぶっていると、周りの人が気さくに話しかけてきてくれることがわかりました。四日市に到着すると、もうへとへとでしたが、工場群を見るために、少しだけ国道23号線を走ってみることにしました。

国道23号線は交通量が非常に多く、走りにくくて怖い道でした。すぐに走るのは諦め、四日市の港を見学に行き、巨大なクレーンを見上げたり、工場に立つ、煙のもうもうと上がっている煙突を眺め、満足して宿に向かいました。

四日市のホテルでは、駐車場の片隅に自転車を止めさせてもらいましたが、屋根のない駐車場であったので、明け方に降った雨で自転車が濡れてしまいました。

3日目(8月29日)

3日目は、朝からものすごく湿度が高く、走りながらダラダラと汗が流れ続け、ひどくしんどかったです。まだ日も登っていないのに、汗が止まらず、休憩のためにコンビニの車止めに腰を下ろすと、座った部分にはお尻の形に汗のシミができるほどでした。

真夏なので、側道は雑草が繁茂して通れなくなっている部分もありました。草刈りがなされていないところでは、道に飛び出した草に当たると、他人に叩かれたのかと思うほど痛かったです。植物の生命力の凄さを実感しました。きっと、人間の文明によって築き上げられた都市も、滅びればあっと今に植物に覆いつくされてしまうだろう…と思いながら走っていました。

交通量が多い道路で歩道がないところは、本当に怖かったです。もう死んでも仕方ない、と思うしかありませんでした。心身共にくたくたになって、海津市の道の駅にたどり着きました。

海津市の道の駅の従業員の方とお客さんは、とても心優しい人たちでした。ここでは足湯に一番に入れてもらって、関ケ原までの行き方も教えてもらいました。清掃のおじさんは、「自分も若いころに日本一周旅行をしたことがあって、そのときに各地でたくさんの人に良くしてもらったから、今は自分が旅人に出会ったら親切にするようにしている、旅先でよくしてもらった思い出は、後になってもずっと心に残るものだから」とお話してくださった。やさしい人の親切を受けて、気持ちのいい足湯にゆっくりつかれて、とてもリフレッシュできました。

また別の方が、関ケ原へ行くのであれば、大垣を経由するよりも、養老を通って行く方がいいよ、とアドヴァイスをしてくださったので、養老を通って行くことに決めた。

この道も、アップダウンがかなりあってキツイなぁ…と感じましたが、無心で走り続けました。霧が濃く出ていて、いかにも山の中、という感じの景色でした。養老の坂をえっちらおっちら登っていると、なんとさっき道を教えてくださった方が車で追いかけてきてくれ、「毒なんか入ってへんから!」と、ジュースと草餅を差し入れしてくださいました。こんな親切を受けたことは初めてだったので、本当に驚いたし、うれしかったです。なんどもお礼を言って、おじさんの車を見送りました。なんで見ず知らずの私に、みんなこんなにやさしくしてくれるんだろう…と不思議に思いました。でも、一期一会だからこそ、やさしくしてもらえるのかもしれない…と考えたりしながら、自転車をこぎました。

関ケ原の峠は、合戦が行われただけあって、とても楽に越えられました。「登坂道路」と表示されているところを少し登と、後は米原までずっと緩やかに下っていました。

米原の民家にはトトロの木が立っていました。米原では再び迷子になりかけましたが、無事3日目の宿泊地である長浜までたどり着くことが出来ました。滋賀に入ると、山道ではなくなるので、ほっとしました。同じ田舎であっても、平野の有難さを知りました。宿は、琵琶湖一周のときと同じホテルに泊まりました。

一度訪れた経験のある場所なので、安心感がありました。宿に入ると、いつものように、すぐに眠ってしまいました。

4日目(8月30日)

最終日は、時計回りで琵琶湖を周って帰路につきました。近江八幡で、ビワイチとは違う道を通ってみよう、と思い、内陸の方を通って行こうとすると、案の定迷ってしまいました。すごく心細くなりましたが、なんとか草津に出ることが出来、近江大橋を使ってショートカットしました。

最後の小関越えは、直前に多めに水分を摂取してしまったため、おなかの中がタプタプして苦しかったですが、なんとか足をつくことなく越えることが出来ました。余裕をもって、14時ごろには自宅に帰ってくることが出来ました。

なんとか、無事に帰ってくることが出来て、うれしかったです。たくさんの人の親切に助けられた旅でした。この旅を成し遂げられたからと言って、すぐに私自身に変化があったわけでもないし、まだ私の人生には越えなきゃいけない課題が山積しています。けれど、こんなに長距離の自転車旅行をするなんて、今までの私では考えられなかったことだから、まずは、自分の新しい力を見いだせたことを、十分に認めてあげたいと思います。

旅の記録

  1日目 2日目 3日目 4日目
走行時間 6:09,14 6:44,29 5:49,55 5:47,10
走行距離 89.01 km 103.99 km 95.80 km 100.94 km
平均速度 14.4 km/h 15.4 km/h 16.4 km/h 17.4 km/h
最高速度 40.9 km/h 45.5 km/h 37.7 km/h 35.3 km/h

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